伝統建築(寺院・社寺建築)の部位名称
木造伝統建築である社寺には、各部位に細かく名称が付けられています。
建築関係者でなければ普段は気にとめる事のない、内部・柱組の部分名称の中から、主要な物を紹介させて頂きます。
なぜ細かく部品が分けられているのか?
一見すると同じように見える「柱」や「角材」でも、
その役割は異なり、一部位一部位が変わりの効かない、それぞれ固有の役割を持つために、個別名称が付けられています。
それは社寺建築の技術の発展、装飾の発展と密接に繋がっています。
簡単な説明ではありますが、各部位のやくわりご紹介をさせて頂きます。
1.母屋(もや)
屋根の最高部の棟木から、最下部の軒桁までの屋根下地の「垂木(たるき)」を支える為に、等間隔に配置される部材です。同じ母屋という表記でも(おもや)と呼ぶ場合には、屋根の部位ではなく、敷地内にあるメインの建物の事を指します。
2.丸桁(がぎょう)
軒先に配される「3.地垂木(じだるき)」を受ける桁(けた)です。現在は四角く切り出された角材を使用しますが、もとは丸太が用いられていたことから「丸い桁」という意が由来となっています。(がんぎょう)とも呼ばれます。
3.地垂木(じだるき)
軒先の垂木が二重(ふたえ)の場合に、丸桁の直上にある垂木が地垂木です。「母垂木(おもだるき)」とも呼ばれます。地垂木の先に配される垂木は「8.飛簷垂木(ひえんだるき)」となります。社寺建築を象徴する装飾の一つです。
4.桔木(はねぎ)
軒先を長く突き出すために軒先内部に配置し、軒先の重量を支える柱です。「2.丸桁(がぎょう)」の垂直上に天秤のように配置され、軒先内部に伸ばして軒荷重を支える側と、重さを相殺するために反対側の天井裏側にも伸びています。
5.手挟(たばさみ)
屋根の勾配に平行な垂木と、地面に水平な「12.斗栱(ときょう)」の角度の違いにより生じた3角形の空間を埋める装飾材です。
6.打越垂木(うちこしだるき)
「7.向拝桁(こうはいけた)」に架かる垂木です。主屋からの垂木が向拝桁を越えて架かることからこのように呼ばれます。
7.向拝桁(こうはいけた)
「17.向拝柱(こうはいばしら)」を結ぶ桁です。
8.飛檐垂木(ひえんだるき)
軒先の垂木が二重(ふたえ)の場合に、「3.地垂木(じだるき)」の先に付けられる垂木です。一般的には地垂木より短く作られます。
9.裏甲(うらごう)
「10.茅負(かやおい)」の上部に設置される部材です。
茅負と一体で軒先の鋭角な段差と、寺院・神社の建物を正面から見た際の左右への優美な曲線美を作り出す部分です。
10.茅負(かやおい)
軒先の垂木の先端の上に設置され、裏甲の土台となります。裏甲と合わせ軒反りの美しさを作り出す部位です。
11.木負(きおい)
地垂木の先端の上面に取り付けられる横木で飛檐垂木を繋ぐ役割を持ちます。
12.斗栱(ときょう)
社寺建築の代表的な様式で、斗組(ますぐみ)、枡形(ますがた)、組物(くみもの)、斗組(とぐみ)とも呼ばれます。
梁や桁にかかっている荷重を柱に伝える役割を持ちます。上部の接点は分散させ、梁や桁の接点の負荷を軽減しつつ、分散して集めた荷重を柱へと1点に集中して伝えています。建築装飾の進化により、緻密かつ複雑な構造となり、部位単位では最も部品数の多い箇所となっています。
13.向拝虹梁(こうはいこうりょう)
向拝柱に設置される虹梁(こうりょう)のことで、一般的な虹梁と同じですが、社寺の正面にある向拝に設置されるため最も目にしやすい装飾の一つです。
14.海老虹梁(えびこうりょう)
主に主柱から、低い位置にある向拝柱を結ぶ際に虹梁。高低差結ぶため湾曲している形から「海老」と名前が付けられています。
15.舟肘木(ふなひじき)
外部から見えにくい場所や、入り組んだ場所で、枓栱の代わりに桁を支える際に使われます。
面で桁の荷重を支えるため上面が広く、下面が狭まった形状から船底になぞらえてこう呼ばれます。「舟形肘木」とも呼ばれます。
16.大斗(だいと)
「12.枓栱(ときょう)」を構成する斗(ます)の中で、最下部にあり大きさも強度も最大となります。
17.向拝柱(こうはいはしら)
向拝を支える柱で「表柱(おもてばしら)」とも呼ばれる。その足下は礎盤石、沓石などが敷設されている。
18.折上げ格天井(おりあげごうてんじょう)
升目状に組み合わされた「格天井(ごうてんじょう)」の平面部を上部に押し上げた形状の天井を折上げ格天井と呼びます。押上げ部分の縁はなだらかな曲面仕上げとなっています。
19.平格天井(ひらごうてんじょう)
「格天井(ごうてんじょう)」とも呼ばれる、升目状に格子が組まれた天井装飾です。
20.竿縁天井(さおぶちてんじょう)
一般住宅の和室で多用される、竿縁とよばれる木材の上に、天井板を張った天井です。
21.あり壁長押(ありかべなげし)
「蟻壁長押」。「34.長押」の取り付け位置で、天井の縁に取り付けられる「天井長押」と、襖や障子の上にある鴨居部分の「内法長押(うちのりなげし)」の間に取り付けられる長押のことです。
22.架木(ほこぎ)
高欄(こうらん)一番上にある手すりのように見える笠木・横木です。その断面は多くが円形ですが、6角形、8角形などの形状の架木も使われています。
23.浜縁(はまえん)
外陣などの外側にある板張りの部分を指します。回廊状の場合、廻縁(まわりえん、かいえん)、また単純に縁(えん)とも呼ばれます
24.親柱(おやばしら)
高欄にある「宝珠柱(ほうじゅばしら)」とも呼ばれる擬宝珠(ぎぼうしゅ)のついた柱です。
25.礎盤石(そばんせき)
「礎盤・双盤(そうばん)」とも。禅宗様建築から広がった「26.沓石(くついし)」の上に置かれる柱を受ける部材です。
26.沓石(くついし)
柱の土台となる石のことです。
27.段木(だんぎ)
厚みのある階段の踏み板で、その厚みの段差がそのまま階段の段となります。
28.虹梁(こうりょう)
社寺建築特有の梁で、雨上がりの虹をイメージしてやや反りを持たせた構造になっています。彫刻装飾が施され、使われる部位毎に「海老虹梁」など様々な名称があります。
29.菱格子欄間(ひしごうしらんま)
様々な装飾が施される欄間の、菱形模様に格子を組み合わせた欄間です。
30.大梁(おおばり)
梁の中でも柱と柱の間にかけられる要となる木材です。屋根構造体においては屋根の荷重を支え、柱に伝達する最重要な部位となります。
31.土居桁(どいげた)
軒先を長く伸ばす際に荷重を支える「4.桔木(はねぎ)」を組み込みますが、その桔木を支える桁が土居桁です。
32.頭貫(かしらぬき)
柱の上部側の端の一部を掘り下げ、そこに横木を落とし込んで柱間を繋ぐ構造です。
33.長押(なげし)
長押とは壁面の柱から柱の間に取り付けられる横木のことです。
取り付け位置により、「21.あり壁長押(ありかべなげし)」「35.地長押(じなげし)」など複数の部位名があります。
34.地長押(じなげし)
長押の中で、柱の最下部をつなぐ物を地長押・地覆長押(じふくなげし)と呼びます。
35.亀腹(かめばら)
「饅頭形(まんじゅうがた)」とも。基礎部分に漆喰を盛って曲面に仕上げた部分の名称です。
36.基壇(きだん)
建物を建てる基礎とするため地面に石や土を盛り、平らにした壇の総称です。
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